前回のお話で、花粉などのアレルギーに関わるのは、主に免疫グロブリンE(IgE)だということがわかりました。今回は、そのIgEがどこで作られて、どのように働くのかを調べてみます。
アレルギーのしくみにせまる
IgE(哺乳類だけがもっている抗体)
・分子量19万のわりと大きな1量体の抗体。
・作られる数は、抗体の中でいちばん少ない。
・病原菌やウイルス以外の有害な侵入物を抗原とする。
・からだに侵入した寄生虫をやっつけてしまう。
・アレルギーの原因になっている。
働き者なのに、迷惑もかけちゃう悲しい主役
寄生虫や病原菌をやっつけているうちに、いつの間にか人間もやっつけるようになっちゃった。そんな悲しい運命の真っただ中にいる、このお話の主役のかたをご紹介します。
その主役の名前は、『マスト細胞』。
ドイツ語の ”mastzellen”(栄養が充分で肥満した細胞)を訳したもので、通常は「肥満細胞」と呼ばれるそうです。顕微鏡で見ると、図のようにたくさんのつぶつぶがあるため、”顆粒細胞” とも呼ばれています。顆粒の一粒一粒が、強力な薬剤のパッケージで、ヒスタミン(histamine)もそのひとつです。
かゆみ止めとして知られる「レスタミン」は「ヒスタミン」をもじって「rest(休息する)+amine(薬品でよく使われる「アミン」類の接尾語)」としたもので、なかなか考えられています。看護師をしているぼくの妹は、「less(少ない)+ tamine(ヒスタミンのうしろ半分)」って名前が、「馬鹿っぽくて嫌いだ」って言ってました。ノーコメントです。
そんなふうに、効き目を抑える薬が出回るなんて、ヒスタミンとは、悪者なのでしょうか?詳しく調べてみましょう。
ヒスタミンのおしごと
マスト細胞に蓄えられているヒスタミンは、毛細血管を拡張させる作用を持つ化学伝達物質です。
毛細血管などの壁はストレッチ素材で作られており、拡張するとすき間が広がります。
すると、そのすき間からたくさんの白血球が血管の外に飛び出し、からだの中に侵入した異物を食べつくしてしまいます。
そうなるためには、ヒスタミンという物質、欠かせないんですね。
さらに、血管壁からは水分も染み出すので、血管のなかの血液の量が少なくなります。
すると、タイヤの空気圧が減るのと同じ理由で、血圧も下がるんです。
本来、こんなに大切な役目を任されているのがヒスタミンなんですが、それにもかかわらず、多くの人から、目の敵にされています。
それは、狭くて嗅覚神経の集まった鼻腔の中で放出されると、大変なことになるためです。
鼻水がしたたり、くしゃみがとまらず・・・。
まるでヒステリック(hysteric)な症状を引き起こすので、「ヒスタミン」。
なのかと思っていましたが、綴りが違いました。
リンパ系のなぞ
「リンパ腺」「リンパ管」「リンパ球」など「リンパなんとか」というのがありますが、いまもナゾの多いものなのだそうです。リンパ管と血管とのつながりをだいたいまとめてみました。
白血球は骨髄で作られ、その一部が「胸腺」に運ばれます。「胸腺」というのは、忍者になるための、道場のようなところのようです。「鬼滅の刃」でいうと「産屋敷亭」だと思いますが、ぴなちゃん、ここんとこ合ってるでしょうか。間違ってたら教えてください。
からだのなかで仕事を終えた白血球は、毛細リンパ管に吸いとられ、静脈に合流して血液になり、腎臓でろ過されておしっこになります。
白血球・リンパ球と名前は変わっても、その働きは変わらず、外部から進入した異物や、不要になった細胞を食べて分解するのが仕事です。
リンパ球
白血球・リンパ球は、生命の進化とともに種類を増やしてきたと考えられています。
歴史のもっとも古いのは、体内に侵入した異物をとにかく真っ先に食べてしまう好中球、すべての不要物を食べてくれるマクロファージ、細菌感染したリンパ球やがん細胞だけを食べてしまうNK細胞なのだそうです。
このうちマクロファージは、食べたものの「遺伝子」を汗のように体の表面に浮き上がらせます。
これが免疫の始まりで、その汗をかぎ分ける特殊な才能を、T細胞は獲得しています。
T細胞とB細胞
体の中には、免疫を学ぶ道場のようなものが2つあり、その道場ごとに名前がついています。
リンパ球 | どこでどんな修行をするか |
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T細胞(炭治郎) | 胸腺(Thymus)という道場で、遺伝子を識別する方法を伝授される |
B細胞(胡蝶しのぶ) | 骨髄(bone marrow)という道場で、抗体を作る方法を伝授される |
T細胞は常に大食い細胞のマクロファージと一緒に動き回り、マクロファージが食べた後に体の表面に浮き出る「たんぱく質」を識別します。
それが「感染性のあるたんぱく質」だったとき、次の2つの仕事をします。
① 細胞分裂によって感染が広がらないよう、感染した細胞を見つけ出して殺す。
② 遺伝子情報をもってリンパ節へ向かい、若いB細胞に抗体を作らせる。
B細胞は、骨髄の中にある道場で、限られたリンパ球が遺伝子組み換えの技術を学びます。
感染性のたんぱく質を無毒化する”抗体”を作ることができるのは、ここで修行を積んだ「B細胞」だけです。
B細胞は、初めニワトリの肛門近くにあるファブリキウス嚢(Bursa fabricii)という器官からみつかり、B細胞と名づけられました。人の場合は骨髄(bone marrow)の中で作られていることがわかり、やっぱりB細胞と呼ばれています。T細胞もB細胞もともにリンパ球の仲間で、免疫反応の中心を担っているんですね。
ようするに『リンパ・・・』と名のついたものは、免疫に関わる器官なわけです。
からだの中の鬼殺隊の正しいたたかい方
鼻の粘膜にたどり着いた花粉は、その一部が溶け出し、粘膜の内部に入り込みます。
しかし、通常は好中球やマクロファージによって食べられ、分解されます。
マクロファージは少量のヒスタミンを放出し、粘液の分泌を促して、花粉を洗い流します。
通常は、これで終了。
花粉は毒もなく、増殖もしないので、それ以上の防護は要らないのです。