ふっかつのじゅもん

虐待(ぎゃくたい)の足かせをはずした「天国言葉」のちゃぶ台返し・・・復活の呪文(ふっかつのじゅもん)ファイルNo.1

ピノすけ
ピノすけ
父親から虐待を受けているのに救えなかった女の子を、一言で救った「復活の呪文」のお話です。
ぴな
ぴな
ホントは一言じゃないんでしょ?
ピノすけ
ピノすけ
いやいや、ひとことです。
ぴな
ぴな
ははは。鼻が伸びてる!

虐待に、慣れてしまった、小春ちゃん

小春ちゃん(仮名)は、18歳。

妹の小夏、弟の秋夫の3人きょうだい。長女の小春ちゃんだけが、実のお父さんから身体的・精神的な虐待を受けていました。
本人は虐待を受けている自覚はないけれど、ノイローゼの自覚はあり、保健室通いをしています。
前の年、太ももにアザができたのを養護の先生がみつけ、学校に児童相談所の人がかけつける事件がありました。

ところが、小春ちゃんは「子どもの家」にうつることをいやがります。

「子どもの家」…ここでは、いろんな事情で家においておけない子どもを引きとって育てる家の意味で書きました。

保健室に通う小春ちゃん(左)ぴのすけはただの通りすがりです
こはる
こはる
家を出たら、大学へ行くお金を出してくれなくなっちゃう。
ピノすけ
ピノすけ
合格してしまえば、親はよろこんで協力してくれるもんだよ。
こはる
こはる
大学なんて行かなくていいって言われる。

 
何を言っても、はんたいの言葉がもどってくるめんどくさい困った女の子でした。

虐待って、どんなこと?

ピノすけ
ピノすけ
虐待を受けている子はみんな、ガマンしすぎて、おかしくなります。
ぴな
ぴな
虐待ってどんなこと?
ピノすけ
ピノすけ
これは、小春ちゃんの場合です。
・勉強していると「勉強するな」と邪魔をされる。
(これは憲法にも違反しています)
・教科書や問題集を破られる。
・わけもなく、腕をつかまれ正座させられる。
(そのはずみで、モモのあたりに青アザができました)
・ものを投げつける。
 
ぴな
ぴな
これはたいへんだぁ。わたしはガマンできずに、夜に向かって駆け出しちゃうかも。
ピノすけ
ピノすけ
それはまずいね。
ぴな
ぴな
まずいですね。
ピノすけ
ピノすけ
ガマンをつづけているうちに18歳になっちゃいました。
ぴな
ぴな
18歳になると、まずいの?
ピノすけ
ピノすけ
18歳になると、もう「子どもの家」に逃げ込むことが、できないんだ。

知っておいてほしい「18歳問題」

18歳からは、児童相談所の管轄ではなくなり、お金のかからない「子どもの家」に入ることができません。
(近くの「子どもの家」の理事長さんは「入れてあげたい」と話していたそうです)

ぴな
ぴな
入れてもらえるといいですね。
ピノすけ
ピノすけ
それを目標にしていました。

長い1週間の始まり/1日目…流血事件

ある日、小春ちゃんの奨学金の手続きをめぐって、親子げんかになりました。

お父さんが投げた何か「かたいもの」が、お母さんの頭を直撃ちょくげき

あたりは、血まみれになったそうです。

となりの部屋でようすを見ていた小夏ちゃんが、機転を利かせて警察110に連絡をします。

すぐに警察と、救急車がやってきました。

お父さん
お父さん
つまづいて転んだことにしろよ。

 
電話をした小夏ちゃんが付き添いで救急車に乗り込み、お母さんは病院へ。

治るまでに二週間はかかるケガでした。

お母さん
お母さん
つまづいて転んでテーブルの角にぶつけたんです。

 
警察が納得して帰るのを見送りながら、小春ちゃんは、家の外に出ました。

小春ちゃん、1度目の決断

もうすぐ夜の10時でしたが、小春ちゃんは、近所の公園の近くを、うろうろ・・・。

おそい時間なので、泊めてくれる友だちが見つかりません。

こはる
こはる
スマホの電池がのこり5パーセント・・・

 
ぴのすけの電話番号をみつけ、メッセージを送ってみました。

ぴのすけは、教頭先生といっしょに学校のかぎを開けて、小春ちゃんを、待ちます。

しばらくすると、電話がかかってきました。

こはる
こはる
○○ちゃんのお母さんが、泊めてくれるそうです。
ピノすけ
ピノすけ
よかったよかった。明日は、何も持たないでいいから、まず学校に来なさい。
こはる
こはる
大丈夫です。行きま・・・

 

電池が切れたようでした。

2日目…DVシェルターという選択

小春ちゃんは学校に来たものの、保健室から出られません。

今日、帰る家がないのだから、しかたがありません。

児童相談所に連絡をしたところ、すぐに警察の生活安全課の人と一緒にやってきました。

DVシェルターをすすめられる

DVシェルターとは、主に女性が夫のDVから逃れるための場所です。
そのため、場所はヒミツになっています。
そのヒミツを守るため、シェルターにはきびしい決まりがあります。
・場所を人に教えてはいけない。
・スマホやタブレットは持ち込めない。
・外出が制限される。
つまり、学校に通えなくなってしまうため、ふつうは未成年者は入れてくれません。
 
警察では、臨時のシェルターとしてビジネスホテルを用意してくれることがあります。
ふつうのビジネスホテルなので、外出の制限はなく、通学も可能です。
ただし、未成年者は保護者と一緒でなければ利用できません。
やはりここにも「18歳問題」があります。
 

小春ちゃんは、臨時のシェルターに望みをつなぎました。

問題は、お母さんの同意を得て、付き添ってもらわなくてはならないことです。

いざ、シェルターへ

お母さんに連絡をしたところ、あっさりと、OKがでました。

しかも、妹たちを連れて、みんなで家を出るというのです。

たしかに、前の日の事件以来、家の中が冷えびえとしていました。

とりあえずシェルターでしばらく生活する。

お母さんといっしょなら、アパートをさがすのも、楽です。

これですべてうまくいくように、思えました。

まさかの、ふりだしにもどる

ところが、警察に指定されたホテルに行ってみると、

「ご予約をお受けしていないようなのですが・・・。」

そんな、素気ない返事。

同じような名前のホテルがいくつかあるため、違うホテルに来てしまったものと思い、電話をしてもらいましたが、やはり、予約がありません。

ピノすけ
ピノすけ
そういう名前のまぎらわしいホテルが、シェルターとして選ばれやすいのかもしれません。

それはともかく、警察の予約なしでは、お金がかかってしまいます。

なぜか、「警察に確認をする」という行動には、うつりませんでした。

お母さん
お母さん
ばかばかしい。帰りましょう。

お母さんは、初めから、連れ戻すつもりだったのかもしれません。

小春ちゃんは、帰りたくない。

3人は、家に帰ってしまいます。

小春ちゃんだけが、街の中に放り出されてしまいました。

友だちの家に頼みたいけれど、もう2日も、着替えていません。

家に帰ったのは、お父さんが酔って眠りにつく、夜の10時をまわったころでした。

それから数日、何もなかったように、いつもの生活が続きました。

6日目…思いがけない「訪問者」

家に突然、児童相談所の職員があらわれます。
小春ちゃんの、生活状況を調べたいというのでした。

お母さん
お母さん
小春はまだ帰ってきていませんから。

 
お母さんは、相談所の人を、追い払いました。

その話を聞いたお父さんは、小春ちゃんが児童相談所に通報したのだと勘違いをします。

お父さん
お父さん
児童相談所に通報したんだな!
ピノすけ
ピノすけ
法律上、通報しないといけないんだけど、とりあえず逃げ場を確保するのを急ぎました。

小春ちゃんのいちばん長い1日…2度目の脱出

担任の先生、教頭先生、ぴのすけが学校にあつまり、小春ちゃんを待ち続けます。

警察の生活安全課の人たちも駆けつけて、小春ちゃんの行き先をさがしてくれました。

小春ちゃん、2度目の脱出。警察も到着。

しかし、18歳の小春ちゃんは、DVシェルターも「子どもの家」も、引きとってはくれません。

担任の先生
担任の先生
今日は、私の家に、泊まっていくということで、いいですか?

結局、担任の先生の家に、泊めてもらうことになりました。

7日目 足かせ

昼過ぎから生徒相談室に、大勢の人たちが集まることになりました。

警察の生活安全課、児童相談所、市のくらし安全課、担任の先生、教頭先生、そして小春ちゃんのお父さん、お母さん。

小春ちゃんを施設に移すか、家庭に引き渡すかどうかの話し合いに入ります。

教頭先生が、事前予想を立てました。

教頭先生の事前予想

ケース1

親が虐待の事実を認め、警察が仲介に入る

⇒ほぼ絶望的

・小春ちゃんが「相談したことを親には秘密にして欲しい」と訴えている。
・親は、虐待と思っていないので、認めない。

ケース2

下宿の費用を親が出し、別居する。

⇒ほぼ不可能

・親には、別居させる理由がない。お金を出す理由がない。

ケース3

児童相談所・市の生活安全課を説得して、「子どもの家」への根回しを強めてもらう。

⇒ほぼ不可能

・18歳問題がある。
・小春ちゃん本人が、虐待を秘密にして欲しいと言っている。
・親も虐待を認めない。

教頭先生
教頭先生
十中八九、自宅に引き渡す流れにまとまりそうです。
ピノすけ
ピノすけ
私も、話し合いの場に立ち会って良いですか?
教頭先生
教頭先生
ああ、来てもらえると助かります。その代わり、小春ちゃんは、理由を何も話していないということで、口裏を合わせてください。

ぴのすけは、なんとかその場に潜入できることになりました。

ぴのすけのヒミツ

ぴな
ぴな
「口裏を合わせる」って、「みんなでウソをつく」ってことでしょ?
ピノすけ
ピノすけ
そうなんだ。でもウソをつくと鼻が伸びちゃうから、だまってなきゃ。
ぴな
ぴな
私たちが「ぼう人形」だってこと、ばれちゃうもんね。ホントは木の棒でできてるの。
ピノすけ
ピノすけ
僕たちの宿命だ。

小春ちゃん、最後の決断

話し合いの前に、保健室にいた小春ちゃんの、気持ちを確認しました。

こはる
こはる
家に帰るのが恐いです
ピノすけ
ピノすけ
そっか。しばらく家に帰れなくなるけど、いいね。
こはる
こはる
だいじょうぶです。

 
小春ちゃんはホッとしたように笑顔を見せました。

僕は、小春ちゃんの笑顔から、勇気をもらいました。

ふたたび、ふりだしの予感

警察の生活安全課の人が、事情をまとめていきました。

けいさつ
けいさつ
小春ちゃんがなぜ学校に逃げてきたか、事情を聞かせてください。
お父さん
お父さん
家に児童相談所の人が来たので、どうして来たのか、小春が何も知らないというので、大声でおどろかせたんです。暴力はふるいません。

学校や児童相談所がどこまで知っているのか、どんなことを話したのかを問い詰めたけれど、小春ちゃんが何も話していないというので、つい大声をだした・・・・ということでした。

小春ちゃんを、施設に預けるか、下宿に住まわすかということについては・・・

お母さん
お母さん
お金もかかるし、どうしてそんなところに住みたいのか。とってもわがままな子なので。

こう言った話が1時間ほど続いた結果・・・

けいかん
けいかん
「二度と大声で娘を怖がらせません」という誓約書を書いてもらって、小春さんはご自宅で引き取ってもらうことで、解決してはどうでしょうか?

それしか打つ手がないのです。
児童相談所・市役所のくらし安全課も、新しい提案ができず、警察に同意します。

担任の先生
担任の先生
それでいいと思います。小春ちゃんが進学したい気持ちを、受け止めてあげてください。
教頭先生
教頭先生
私も、同意します。

 
教頭先生がまとめに入って、引き渡しが決定的になった。
お父さんは約束するけれど、それを破るのは、むずかしくない。
いざとなれば、刑務所に行くのも、嫌がらない人だ。
そこで、ぴのすけは、覚悟を決めました。

ピノすけ
ピノすけ
発言させて頂いてよろしいでしょうか?

ぴのすけ、ウソをつく覚悟を決める。

再び、ぴなちゃんの突っ込み

ぴな
ぴな
「ウソをつく覚悟」ってダメでしょ。
ピノすけ
ピノすけ
大切なことを忘れてたよ。
ぴな
ぴな
大切なこと?
ピノすけ
ピノすけ
だれかを幸せにしようとするウソでは、僕らの鼻は伸びないんだよ。

ぴのすけの想い

お父さんがこれから書こうとする誓約書は、

本当は、誰も信じていない誓約書。

誰も信じない誓約書を書くことは、とてもみじめなことです。

ぴのすけは、会議の間、ずっとお父さんを見ていました。

言いわけをしないと、まともな人として、見てもらえない。

人をだますウソをつかないと、自分の立場がたもてない。

そんな、誰も信じないお父さんを、小春ちゃんは信じています。

僕は小春ちゃんに、「良いお父さんだね」って、言ってあげたい。

僕は、小春ちゃんを、家から出すと約束しました。

僕は、約束を、守ります。
 

ぴのすけの、ひっさつ、ちゃぶだいがえし

私は部外者なので、みなさんの同意を得て、発言しました。

ちゃぶだいがえし

何があったのか、分かりませんが、小春ちゃんは、強い子ですね。
あんなに何も話さない子とは、はじめて出会いました。
(本当に、しつこく聞かないと、何も言いださない子でした)
さすが、お父様の娘さんだ。女の子なりに、男気がありますね。

ご自宅では、しかりつけたいこともやるんだと思いますが、学校では、とても良い子です。
勉強でも、特に物理や化学では、いつも学年でトップです。
先生たちはみんな、本人の望みどおり、大学に行かせてあげたいと思っています。
小春ちゃんは、お金のかからない国公立大学を希望していて、その実力もあります。

ところで、お父様の一番の望みは、娘さんとの仲を、戻したいということですよね。
私の想像ですが、娘さんが今日、自宅に帰られた場合、仲が戻るとは思えません。
ひと月かふた月ほど、シェルターに預けてみてはどうですか?

そして、ひと月かふた月、離れて暮らせば、気持ちもおさまると思います。
私は、小春ちゃんに、良いご両親だねって、伝えつづけます。
小春ちゃんはいま、心配で心配で、保健室がよいをしています。
そんな小春ちゃんに、自信をもって、もらいたいです。

お父さんの目もとが、すこしうるんだようにみえました

3分ほどして、父親の目が涙でうるむのが見え、両親とも、娘がシェルターに入るのに同意しました。

「子どもの家」と「シェルター」の2つの道を探っていましたが、「子どもの家」は、結論がつかず、依頼を継続。

子どもの中に、素性の分からない18歳がやってくるのですから、無理もありません。

しばらくの間「シェルター」に入り、その間に「子どもの家」の結論を待つことになりました。

そのシェルターでは、管理人さんが小春ちゃんの人柄を認めて、学校に通っていいことにしてくれました。

同時に、市の福祉課に相談していた生活保護が受けられることになり、「子どもの家」よりずっと近くの下宿に入ることができました。

生活も安定して、保健室通いも、なくなり・・・・もともと賢い子だったので、推薦で国立大学に合格。

いまは、遠くの街で、自分の好きな道を、歩きだそうとしています。

(おしまい)

 
 

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