えほん・どうわ・たんか

雪虫(ゆきむし)がいなくなると・・・?(ざんこくな子どもの話)

小(ちい)さな頃(ころ)、3つ上(うえ)の姉(あね)から、ある秘密(ひみつ)を聞(き)いた。

あね
あね
「この雪虫(ゆきむし)がみーんないなくなるとね、・・・・・」

ぼくはすぐに、ある作戦(さくせん)を考(かんが)えた。
2つ下(した)の弟(おとうと)と一緒(いっしょ)に、行動(こうどう)を始(はじ)める。

店番(みせばん)をしていた母(はは)から、はかり売(う)りのお菓子(かし)を入(い)れる、小さいまっ白(しろ)な紙袋(かみぶくろ)をもらった。

それを手袋(てぶくろ)のように両手(りょうて)にはめて、ぼくたちは外(そと)へとびだす。

雪虫(ゆきむし)を退治(たいじ)するのだ。

「パンパン、パパン。」

小(ちい)さな戦(たたか)いがはじまった。
飛(と)びかう雪虫(ゆきむし)を、てのひらで、たたいてつぶす。

まっ白(しろ)な雪虫(ゆきむし)は、無残(むざん)に潰(つぶ)されると、まっ白だった紙袋(かみぶくろ)を、まっ黒(くろ)にかえてしまう。

紙袋の両面(りょうめん)は、オセロのコマのように白と黒に分かれた。

ぼくは知っ(しっ)ている。
雪虫(ゆきむし)にも、命(いのち)は、ある。

ぼくが素手(すで)つぶすのを、まっさきにやめた理由(りゆう)。
ぼくができるだけ、黒い面(めん)を見(み)なかった理由。
そこには、疑(うたが)いのない、命(いのち)があるからだ。

ぼくたちは、顔(かお)を見合(みあ)わせた。

ピノはる
ピノはる
とりかえたいよ

ぼくはこの紙袋(かみぶくろ)を、最後(さいご)まで大事(だいじ)に使(つか)うつもりでいた。

ピノすけ
ピノすけ
うらがえして、使(つか)おうよ。

裏返(うらがえ)して使(つか)えば、無駄(むだ)にしなくてすむ。

それに、母(はは)にこの紙袋(かみぶくろ)を見(み)せるのは、気(き)の毒(どく)だ。

そっと裏返(うらがえ)して、戦い(たたかい)のつづきをはじめた。

ぼくはすぐに、黒(くろ)い面(めん)が見(み)えてしまうのが気(き)になった。

ぼくたちは、わりと勇敢(ゆうかん)に戦(たたか)っていた。

けれども紙袋(かみぶくろ)の黒い面は、ぼくから力(ちから)を抜(ぬ)きとってしまう。

ぴのはる
ぴのはる
とりかえたいよ

店(みせ)に戻(もど)って、白黒(しろくろ)になった紙袋を母(はは)に見(み)せた。
母(はは)は顔(かお)をしかめながらそれをうけとり、新(あたら)しい紙袋(かみぶくろ)をくれた。

ぼくは、晴(は)れ晴(ば)れしい気持(きも)ちになって、元気(げんき)を取(と)り戻(もど)した。

そんなことを何度(なんど)繰り(くり)返(かえ)しただろう。

母(はは)の複雑(ふくざつ)な表情(ひょうじょう)を何度(なんど)見(み)ただろう。

ぼくは、罪(つみ)という言葉(ことば)を知ら(しら)なかった。
☆罪(つみ):きまりをやぶることや、やぶったこと。ひとつ、ふたつ、とかぞえられる。

紙袋(かみぶくろ)の黒い面は、子どもには背負(せお)えないくらいの「罪(つみ)」におおわれていた。

紙袋(かみぶくろ)をとりかえることは、母(はは)がその「罪(つみ)」を受(う)けとる、ということだ。

新(あたら)しい紙袋(かみぶくろ)をもらうたび、ぼくが元気(げんき)を取(と)り戻(もど)したのは、そんなしくみになっていたから、かもしれない。

夕日(ゆうひ)が傾い(かたむい)て、まわりの空間(くうかん)がオレンジがかったクリーム色(いろ)にかすんでいる。

ぼくらは、雪虫(ゆきむし)退治(たいじ)をやめなかった。

雪虫(ゆきむし)は一向(いっこう)に減る(へる)気配(けはい)がない。

あいかわらず、吹雪(ふぶき)のような雪虫(ゆきむし)だった。

子どもは残酷(ざんこく)だ。
残酷(ざんこく):あるものの命(いのち)より、自分(じぶん)の考え(かんがえ)を大事(だいじ)にして、あるものをメチャメチャにしてしまうこと。

子どもは、自分をどこまで守るべきかを、知らないからだ。

子どもだって、自分の命を守らなくてはいけない。
子どもだって、誰かの命を守りたい。
子どもだって、大切なものを守りたい。
子どもだって、夢をかなえる心を守りたい。
子どもだって、自分の考えを守りたい。

上(うえ)の4つとくらべれば、いちばん下(した)は、ガマンしてもいい。
上の3つとくらべれば、下(した)の2つは、ガマンしてもいい。
上の2つとくらべれば、下の3つは、ガマンしなくてはいけない。

学(まな)ばない人(ひと)は、いちばん下が、ガマンできない。
残酷(ざんこく)な大人(おとな)のニュースは毎日(まいにち)のように流れ(ながれ)る。そういう大人は、いちばん下が、ガマンできない。
そういう大人は、大人ではない。

大人とは、他の人の大切なものを、守ってあげられる人。
大人とは、他の人の夢をかなえる心を、見守る人。
大人とは、他の人の考えを、分かってあげられる人。

大人になるのは、けっこうむずかしい。

他の人の考えも分かるけれど、自分の考えも守りたい。
他の人の夢と一緒に、自分の夢もかなえたい。

いちばん下をガマンするのは、けっこうむずかしい。

こういうことを、理解(りかい)するのは、とてもむずかしい。

他の人の考えを分かってあげれば、いつか自分も分かってもらえる。
他の人の夢をかなえる手伝いをすると、自分の夢がかなう。

姉(あね)は言(い)っていた。

あね
あね
「この雪虫がみーんないなくなるとね、こんどは本物(ほんもの)の、雪(ゆき)が来(く)るんだよ。」

雪虫(ゆきむし)は、次(つぎ)の日(ひ)も、次の日も、吹雪(ふぶき)のようだった。

しかし、僕らはもう、もう雪虫(ゆきむし)退治(たいじ)をやるつもりはなかった。

そして母(はは)も、もう、紙袋(かみぶくろ)を渡(わた)すつもりはなかったにちがいない。

令和元年の秋は、雪虫の多い年だった。だけど、この冬は、雪が少なかった。

たくさんの雪虫は、本物の雪の代わりに来てくれたのかな。

ある日、ジャンパーに雪虫がくっついた。

ぼくはもう、大人になれただろうか。

ぼくは、雪虫に「ふっ!」と息をかけて、逃がしてあげた。

子どもは残酷、カエル編(へん)(計画中)・・・よい子は読(よ)まないでね。

ABOUT ME
pinosuke
ぴのすけ@30年間、地方で物理の教師をやったあと起業してしくじり、いまは会社員をしながら再起動中です。 学校では、うつや不安症やアレルギーといった、心理面、健康面でのサポートが得意で、無理だと思われていた子も、不思議と学校に戻ってきました。 大きなしくじりを体験し、ビジネス面でも意外に「ついてる」ことが発覚。 これからはビジネスに重心を置いて、サポートの力を試していきます。