ほんの一年と少し前、まだ8歳だったぴなちゃんは、人生のどん底から自分の力ではい上がりました。ぴなちゃんの単身赴任中のお父さんは、どの先生もあきらめるような不登校の子たちも励まして卒業させてしまう、自分ももと不登校だったベテラン教師。さんざん悩ませたお父さんを、元気にしてくれたひとことは・・・・
今回は、そんなつよい子ぴなちゃんが体験した、人生のどん底に落ちるまでのお話です。
子どもひとりひとりの中に必ずいる恐竜たち
うらみっコドラゴン・・・ほかの人をうらやましいと思う
なすりっコドラゴン・・・他人に罪をなすりつける
あらさがしっコドラゴン・・・人のダメなところを探す
ふくらしっコドラゴン・・・悪い考えを心の中でふくらませる。
1段め 大切な人、ではなくなる瞬間
ぴなちゃん、わくわくの大きな小学校へ
ぴなは雪国生まれの雪国育ち。
2年生が16人だけの、小さな小学校ですごしていました。
3年生に上がる春に、病気がちのお母さんと二人で、あたたかな町に移り住みます。
転校先は3年生だけでも120人を超える大きな学校。
ぴなちゃんのドキドキする気持ち、伝わるでしょうか。
だけど、小さな学校からやってきたぴなは、鍛え上がっています。
授業では、何度も手を上げてがんばる、活発な子でした。
とっても元気で、トンチンカンも言っちゃうぴなちゃん。
新しい友だちもできたようで、とても楽しそうにしていました。
「転校生だから」では許されない世界
4月のなかば、長縄跳びの練習がはじまりました。
めざすは、毎年恒例の6月末の記録会。
まわりはみんな、3年目のベテランぞろいです。
ところが、初めてのぴなは、なかなかコツがつかめません。
たった一人の転校生のおかげで、チームはまるでガタガタ。
一年生のチームみたいでした。
悲しいのは、引っかかるのが毎回、ぴなだけだということ。
引っかかるたびに「あぁ」というがっかりした声。
少し長くとべても「えー?」どうしてなのっていう声。
たったそれだけの声が、ぴなには、ずしんと身にしみます。
「へたくそ。もうちょっと上手になれよ!」
こんなストレートな発言も。
だけどぴなは「ぜったいまけねぇ」って決めていました。
それでもぴなが、負けない理由
ぴなは生まれつきの側湾症をなおすため、3歳で水泳とバレエを始め、4歳で新体操に出会いました。
そこで小中学生と一緒に練習して、フープやリボンやロープなどのわざをおぼえます。
二重とびも得意になり、ぴなにかなう人は、いないかも。
身体全体が柔らかくなり、なんと側弯症も目立たなくなりました。
ところが、長なわとびは、一人では練習ができないのです。
みんなに打ちのめされながら、コツをつかむしかない。
ぴなは、何度もひどい言葉を浴びせられながらがんばりつづけます。
だんだんなれて、新記録が出るようになると、笑顔もみられるようになりました。
それでもぴなが、負けちゃった理由
ある日のことです。みんなは今日も絶好調で、記録を上げていきました。
前にいた女の子がロープにひっかかり「あっ」と声をだすのを、ぴなは聞きました。
みんなはいっせいに、ぴなの方をみます。
前にいた子もこっちをみたので、助けてくれると思いました。
ところが、女の子はいうのです。
みんなが信じたのは、その女の子の方でした。
それまでヘタクソだったぴなの言葉を、みんなは信じてはくれません。
ぴなはまだ、その子たちのことをよく知らない。
その子たちも、ぴなのことを、よく知らない。
こうしてぴなは、みんなからの信用を失い、大切でない人に、なったのです。
どうしてみんなは、ウソの方を信じるのか。
理由がわからず、頭がくらくらしてきました。
2段め 過去の中に引きこもる
なつかしい教室の窓辺
小さな学校のときは、気をつける相手は2,3人でした。
でも30人もいる学校では、だれが味方なのかさえ、もう分かりません。
授業中、手を上げる元気さえ、ありません。
だんだんなかみが、分からなくなってきます。
だけど、やる気が起こらないのです。
先生の声が、うるさく聞こえてきます。
自然に、目は窓のほうを向いていきます。
なつかしい、あたたかい空。
立ちなおる時間は、もらえない
ぴなはときどき、2年生の時の夢を、見ていたそうです。
2年生の時のなつかしい教室。
そこにいると、心があたたかくなる。
もちろん、そんなしあわせは、ながくはつづきません。
窓のまわりの景色におどろいて、ふとわれに返ります。
きょとんとして、前を向くと、先生と目が合います。
大きな、どなり声。
耳がいたくなる。
あたまが、いたくなる。
毎日、くたくたになって、家に帰ります。
3段めのステップ かなわなかった夢
ふるさとへ、帰りたい
あさ起きられなくなったぴなちゃんを、お母さんは心配しました。
毎朝5時に、お父さんの電話で起こしてもらう作戦です。
なつかしい声が、電話のスピーカーからひびきます。
いま、町で起こっていることを、おしえてくれました。
きょねんの夏休みは、友だちと、大好きなプールで遊びました。
ぴなちゃんの家は、プールまで歩いて2分の所にありました。
今年もまた、いっしょに遊びたい。
そんな夏休みを、今か今かと、待ち遠しく思っていました。
夏休みまでなら、がんばれる。
ところが夏休みに、やってきたのは、お父さんのほう。
ぴなちゃんたちを励ますためにやってきました。
このときのことを、お父さんもカン違いだったと反省しています。
お父さんもお母さんも、ぴなが本当に行きたい場所を知っています。
キッザニアには、つれて行ってくれました。
みんなで忘れさせようとしていました。
お父さんが帰るとき、一緒に帰りたいと泣き叫びます。
そんな願いもかなわず・・・
夏休みが明けた朝、ぴなは起きることができなくなりました。
つらい経験をのりこえて、すっかりつよい子になった、ぴなちゃんの童話。
読んだ人がみんな大笑いして、なみだでぐちょぐちょになるようなお話です。
出来上がるのを待っていてくださいね。