ある年の春にとつぜん現われたモーレツな美女は3年前に前任校に残して行った、物理のクラスの生徒だった。「もうすぐ20歳になるので、約束ですよ」という。このお話は、大切な教え子の、本当の心の中を知るために挑戦した、心の実験についての実話です。10代から20代はマジカルエイジ=未来を動かす力がある。僕はマジカルエイジの真っただ中にいる彼女を勇気づける、本当の知恵が欲しかったんです。
3年前の約束
僕はその頃、ぼくを捨てたもと婚約者からの復縁のたよりを、首を長くして待っていました。
☆首を長くして待つ:まだかなまだかなまだかなまなかなまだかな、と思いながら、おとなしく待っていること。
30キロ離れた観光地のお話のつづき
作戦変更。現実路線でいこう。
「あらーそれはラッキーだね」って。
怒っちゃった。
お父さんに、なにかヒミツがある。何とかして、聞きださなきゃ。
急に不機嫌になったナゾの美女と、おろおろするおっさん。まわりの人たちからは、親子げんかに見えたか、それとも、おかしな男女の痴話ゲンカにみえたか。
☆痴話ゲンカ:男女がくだらないことでケンカすること。お父さんとお母さんも、けっこうくだらないことでケンカするけどそれは「夫婦ゲンカ」
ぴのサウルス
せっかく観光地まで来たのに、晩ごはんに行ったのは、CoCo壱番屋でした。
彼女はレディースサイズのパリパリチキン。僕はいつもの、野菜とフッシュフライとナスのミックスの2辛。
お父さんのことを何か聞きださなきゃ。
きた!お父さんのことを聞きださなきゃ!
そうそう。お父さんのおいていったビールがごっそりあるよ。今日、うちに来る?
はぐらかされる。
結局、お父さんのことに触れることができなかった。
僕は彼女のせまい視野の中の、「いちばんおもしろい人」だ。
CoCo壱番屋をでて、近くの電車の駅まで、送りました。
「全脳すみっコどらごん()会議」
自分の中で、みもだえするほどの、葛藤がありました。みもだえするほど悩んでいるとき、脳みそのすみっこでは、すみっコどらごん()たちが、大事な会議を開いています。
☆みもだえする:何かがほしくてたまらないとき、脳みそがはれつするのをおさえるための、からだの動き。おしっこがしたくて膀胱がはれつしそうなとき、からだをくねくねさせるのとおなじ。
☆葛藤:みもだえするほど、悩むこと。
委員長の決断。
ぴのすけの会議録
なにか「はっ」とするようなできごとがあったとき、みんなの頭の中で『全脳すみっコどらごん()委員会』が開かれます。
だけど、その決定は、無視していいんです。
なにしろ、善悪の基準が、恐竜の時代のものだから。
だから、僕はこの会議録を書き換えます。
新しい世界のための『素敵なストーリーを作る()』という命令文に。
どしゃぶりの中にあらわれた美女
それから数日後の、どしゃぶりの雨の日だった。
夜の8時。家にかえって、作りおきの玄米おにぎりを電子レンジで温めていた。
「チーントーン。」
変な音。電子レンジがこわれたか?でも玄米おにぎりは温まっていた。
「ピーンポーン。」
玄関のチャイムだった。
声がないので、郵便ではない。
開けてみると、そこには彼女がいた。
傘をさしているのに、ずぶぬれだった。
そういえば、駅に行く途中に水たまりがある。
そうじゃなくて、
家に入れないと、風邪をひいてしまう。
彼女はこうして、一番目のガードを突破した。
人類史に残る「奇跡の夜」のはじまり
僕がまだ独身だったとき、家には、表札をつけなかった。備えあれば、憂いなし。
生徒から僕の家は気づかれない。
表札がなくても、郵便物は届くし、不便はなかった。
ただ、うっかりしていたことがある。彼女は僕の車を知っている。
僕の家は、古い一戸建てで、近くに車を置いたままだ。
「首吊りの桜」が、窓から見えなくなる位置に。
殺気を感じた。また機嫌を損ねそうだ。
どきどきしながら、お風呂をわかす
落ち着かせようと、まず、風呂を沸かした。
想像してたら、なんだかヨダレがでてきた。
だめだだめだ。
まだ封を開けてないプーさんのデカパンを見つけた。
カーテンがないので、タオルケットを画鋲でとめた。
そういうわけにはいかない。
ふたたび「すみっコどらごん()会議」
委員長の判定
ぴのすけの、会議録
神さまに誓うけど、僕は、見てない。
見たかったけど。
またまた長くなっちゃったので、次回につづきます。