5月すえにしめきりのENEOS童話賞に応募したい子どものために、これまでの受賞作をつよいこ方式で解説していきます。
今回は、中学生編ですよ。
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ふたたび「童話のかきかた」つよいこ方式
1.構成力 ⇒ お話全体の組み立て方
3. 文 法 ⇒ 細かな言葉の組み立て方
第50回 最優秀賞『雨やどりの停留所』青木志央理さん
第50回(2019年) JXTG童話賞 【中学生の部 最優秀賞】
文字の数は、1258文字÷最大2000文字=63パーセント。
1.構成力(こうせいりょく)
たぶん『A(すごいね!)』です。
つよいこ方式では、『はじめ⇒なか⇒おわり』の三段階のそれぞれの役割を、学校の生活に例えて考えていきます。
●はじめ(入学)・・・おはなしに入るための『入学式』です。まじめなのでも、はっちゃけたのでもいいです。
●なか(生活)・・・・おはなしに入ったあとの、生活です。ルールがあったり、やぶる人がいたりします。
●おわり(卒業)・・・おはなしをしめくくる『卒業式』です。思い出にのこるイベントにしたいですね。
●野球選手になりたい夢を話す。
●カエルに「過去にカエルことはできないんだよ」と教えられる。
●野球選手になる想いを、強くする。
2.情報量(じょうほうりょう)
●バス停で雨宿りをする時の気分 ⇒ わくわくB
●雨蛙が雨宿りをしている ⇒ わくわくB
●雨蛙がしゃべる ⇒ わくわくB
●オタマジャクシが意思をつらぬいた話 ⇒ わくわくB
●カエルから見た雨のふる景色 ⇒ わくわくB
●野球選手になる夢 ⇒ わくわくB
●過去にかえることはできない ⇒ わくわくB
●だじゃれに気づかない雨蛙の反応 ⇒ わくわくB
●雨があがった景色 ⇒ わくわくB
●野球選手への想い ⇒ わくわくB
2.5.心のふれあい度
3.文法(ぶんぽう)
飾り過ぎることなく、大人っぽいすっきりした文章がつづきます。
バス停で雨やどりをしていると、自分だけ別世界にいるような不思議な気分におそわれる。だから私は、傘を持っていても雨やどりをしてしまう。
部活からの帰り道、突然の夕立に、慌てて私は近くの停留所に入った。木製のベンチに腰かけると、一匹の雨蛙と目が合った。じっと動かず、ただギョロリとした目玉だけがこちらを見つめている。その姿が雨やどりをしているように見えたものだから、私はくすくす笑った。
まだ中学生なので、勉強と部活と制作活動とを両立させるのは、たいへんだったでしょうね。中ごろの文章で、苦労しただろうなと感じた部分があります。実験的になるのを恐れない姿勢が、素晴らしいです。
「辺り一面真っ白だった。身体の周りにあるのがあたりまえだった水が、銀色に輝いて空から降り注いでくることにただただ感動して、涙が出て。涙と雨の区別がつかなくなったとき、この停留所を見つけたのさ。」
自分の想いを、どうしたらうまく伝えられるか、なんども書きなおしたでしょうね。
1点にしぼって、しぼって、しぼって、最後に示す。
これにそって、こんなふうに書きたかったのかな?という表現を、おなじ文字数で書いてみます。
「何かが銀色に輝きながら空から降り注ぎ、辺り一面を真っ白にしている。それが何なのか、この停留所にたどり着いてやっと気づいた。それは、僕がどうしても見たくて地上へと急いだ理由。それは雨だったんだ。」
4.読後感(どくごかん)
空を見上げると、もう雨はすっかりやみ、青空には大きな虹がかかっていた。
「ありがとう、雨蛙さん。私、がんばってみようかな。」
ベンチから立ち上がると、立てかけていた傘を肩にかまえて、目をつぶった。そして、ホームランを打つ未来の自分の姿を思い浮かべながら、大きくまっすぐ、スイングした。
ちなみに、リトルリーグなどで野球を続けていた女子が、中学や高校で野球をつづけたい場合、都道府県の軟式野球連盟に加盟しているチームに入るのが、一つの選択です。
第50回 優秀賞『空桜』松井絢子さん
第50回(2019年) JXTG童話賞 【中学生の部 優秀賞】
文字数は1346文字÷最大2000文字=0.673(67パーセント)
1.構成力(こうせいりょく)
出だしのところで、おそらく4年前と思われる回想と、今日進行していることが、入り組んで、あいまいな構成になっています。せっかく優秀賞まで進んだ作品なので、こういうところを直すと『A(すごいね!)』に変わります。
・・・・・・4年前(ここから3行だけ)
「空桜って知ってる?」
「そら、ざくら?」
おばあちゃんが私に語りかけた。
・・・・・・今日(ここから3行だけ)
――今年もこの季節がやってきた。
窓に目を向ければ満開の桜。薄ピンク。
そういえば、あの時も満開だった。
・・・・・・四年前(ここから12行だけ)
(中略・・・ながいのでちょこっととばします)
「そうねえ。来年見に行きましょう。」
「ほんと?やくそくだよっ。」
私が差し出した小指におばあちゃんが小指をからめた。
――約束するわ、とほほ笑んで。
・・・・・・今日(このあと最後まで)
約束、守れなかったじゃん。
去年も、一昨年も、その前も。
机に、桜の花びらが一枚飛んできた。
――今日なら、見られる……?
思わず椅子から立ち上がった。
何度か読みかえしてみて、そうなっていることが分かりました。しかし、ふつうは一度しか読まれないので、作者の想いはなかなか人に伝わりません。
4の読後感のところで回想の部分と、これから進行する部分をきっぱり分けてみるので、参考にしてください。
2.情報量(じょうほうりょう)
空桜という現象について⇒わくわくB
(ふつうは桜ふぶきということばであらわしますね)
おばあちゃんとの約束⇒わくわくB
花びらを見て、出発をきめる⇒わくわくB
電車に一人で乗る⇒わくわくB
約束を守れないおばあちゃんの心配⇒どきどきB
3回失敗していること⇒わくわくB
4度目の挑戦⇒わくわくB
ほぼ無風の、静かな公園⇒わくわくB
突然の強い春風⇒わくわくB
元気そうなおばあちゃんのすがた⇒わくわくB
2.5.心のふれあい度
3.文法(ぶんぽう)
主人公が、まちにまった空桜にであう大事な瞬間です。中学生らしい『実験的』な表現で、なんとか感動を伝えようと、がんばりました。
「ひゃあっ……。」
強い春風に、私は目をおおった。
花びらが足にからみつく。
……おかしい。静かすぎる。さっきの静けさとは違う。そう、まるで。
恐る恐る目を開けたそこは。
桜だった。
薄ピンクの空気が私を包んでいた。
空の果てまで永遠に白く霞がかかっている。
「そら、ざくら……。」
綺麗。ただひたすらに美しい。
動かす手に、桜がとけた空気がからみつく。
薄ピンク色のお昼寝したくなるような陽だまりの中、私の心に桜がとけていった。
1点にしぼって、しぼって、しぼって、最後に示す。
「ひゃあっ……。」
強い春風に、私は目をおおった。
花びらが足にからみつく。
風は一瞬で、止んだ。その一瞬の風は、なにかを変えた予感がした。
恐る恐る目を開け、空を見上げた。
何だろう。
私の手元から、空の向こうまで、はてしなく、包むものがある。
薄いピンク色の霞に、私は目をとめた。
「そら、ざくら……。」
はてしなく、美しかった。
動かした手に、桜がとけた空気がからみつく。
薄ピンク色のお昼寝したくなるような陽だまりの中、私の心に桜がとけていった。
作者が表現したかったのは、題名どおりたった一つ、空いちめんをおおっている、さくらの絵画的な美しさです。
想いの『強さ、ヤバさ』をあらわす言葉
只管に⇒そのことだけを続ける。主に行動、状態。
「その桜は、ただひたすら咲き続けた。」「空は、ひたすら青かった」
直向に⇒そのことだけを続ける。主に行動、気持ち。
「雨にも負けず、桜はひたむきに咲き続けた。」
一筋に⇒そのことだけを続ける。主に行動。
「その桜は、子どもたちのためだけに、ひとすじに咲きつづけた。」
一途に⇒そのことだけを続ける。主に純粋な気持ち。アンバランスな片寄った意味も含んでいます。
「人々が訪れることはなかったが、桜は一途に咲きつづけた。」
果てし無い⇒どこまでも広い、おもに空間の広さをあらわす
「桜の花びらが、はてしなく舞い上がっていた。」
計り知れない⇒広さ、深さ、時間、量、測れるものすべて。
「その桜が、どれほどの人々を幸せにしたか、計り知れない」
限りない・際限ない⇒きりがないこと。
半端ない・半端じゃない⇒普通でない、とんでもないこと
「大迫、半端ない!」
しこたま⇒たくさんのものを取り込むこと
「さくらんぼをしこたま食べた。」
ヤバい⇒危険な状態になりそうなこと。
「このさくらんぼは、おいしすぎてヤバい。」
いまの天皇陛下がまだ10代のころ巨人・阪神戦をご覧になり、ご贔屓のチームが負けそうになったとき思わず「ヤバい」とおっしゃられたそうです。かわいらしいですね。(故・古今亭志ん朝さんの落語の枕のところで出てきます)
4.読後感(どくごかん)
あいまいさを極めると、ふしぎな作品、ミステリアスな作品になります。
その理由は単純に、意味が分かりにくいからです。
その反対に、具体的に詳しくわかりやすく書いても、ふしぎな作品はできます。それは、ストーリーそのものが、ミステリアスだからです。
この作品はストーリー自体が、ふしぎさをもっています。だから、もっと具体的に書いても大丈夫。ふしぎさを失いません。
最初の部分を具体的にしてみました。たぶん、はっきり伝わります。
・・・・・・今日(この3行と次の15行を抜いて最後まで)
今年もこの季節がやってきた。
窓に目を向ければ満開の桜。薄ピンク。
そういえば、あの時も満開だった。4年前のことだ。
・・・・・・4年前(ここから15行だけ)
「空桜って知ってる?」
「そら、ざくら?」
おばあちゃんが私に語りかけた。
最後の老婦人は、作者のおばあちゃんですよね!具体化してみます。あおいところが、かえたところです。
動かす手に、桜がとけた空気がからみつく。
薄ピンク色のお昼寝したくなるような陽だまりの中、私の心に桜がとけていった。
両手をそえると、花びらが、ひとひら、舞い降りた。
おばあちゃんに、この花びらをとどけたいな。
「来年、一緒に行こうね。おばあちゃん。約束だよ!」
一瞬だったような、永遠だったような。
現実だったような、空想だったような。
ウグイスの鳴き声で、目を開けた。
手の上にあった花びらは、なくなっていた。
小指に桜の花びらを一枚とどけ、春風は通り過ぎた。
さくら園は、桜を見おろせる高台にある施設。車いすに乗った老婦人のひざに、桜の花びらが、舞い降りた。
「約束だよ!」
花びらは、ささやいた。
「咲ちゃん?」
老婦人は窓の下にひろがる、桜の海を見おろした。
「今度は一緒に見ましょうね。空桜。」
第50回 優秀賞『僕の名前』馬場涼子さん
第50回(2019年) JXTG童話賞 【中学生の部 優秀賞】
文字数は1811文字÷最大2000文字=0.9055(91パーセント)
1.構成力(こうせいりょく)
●転校生に声をかけられ、名前を聞かれる。
●主人公は、自分の名前が嫌いだった。
●名前をつけたお母さんは亡くなっている。
●お父さんは、名前の由来を知らない。
●2人で、図書館に行く。
●お母さんみたいになろうと思う。
途中、『おバカさん役』で登場するお父さんは、そのまま名誉を回復されることはありません。
その一方、亡くなってしまったお母さんに最後の場面で焦点が当たり、涙を誘うはずですが、・・・
2.情報量(じょうほうりょう)
●転校生がやってくる。⇒ わくわくB
●転校生に声をかけられ、名前を聞かれる。 ⇒ わくわくB
●主人公は、自分の名前が嫌いだった。 ⇒ どきどきB
●名前をつけたお母さんは亡くなっていて、名前の由来を聞くことができない。 ⇒ どきどきB
●お父さんは、名前の由来を知らない。 ⇒ どきどきC
●転校生に名前が嫌いなことを言い当てられる。⇒ わくわくB
●2人で、図書館に行く。 ⇒ わくわくB
●『漢字の由来辞典』という本をみつける。 ⇒ どきどきB
●自分の名前の意味がわかる。 ⇒ わくわくB
●お母さんみたいになろうと思う。 ⇒ わくわくB
2.5.心のふれあい度
3.文法(ぶんぽう)
1点にしぼって、しぼって、しぼって、最後に示す。
しかしそんなことは気にせず、転校生は話を続ける。
「確か、『人生の花が咲く』っていう言葉もあるよね。意味は『努力が実って成功する』だったかな。私、その言葉を聞くと『まっすぐに頑張っている人の姿』がイメージできるんだけど、君はどう思う。」
『まっすぐに頑張っている人』。
僕には思い当たる人がいた。ずっと昔の記憶だから曖昧で、ぼんやりとしか思い出すことができないけれど、確かにいた。僕の前では辛そうな顔を一切しなかった人。絶対にあきらめなかった人。絶対に泣かなかった人。
「なんだか、お母さんに似ている気がする。」
気が付くと、目に涙が滲んでいた。
4.読後感(どくごかん)
最後のところで、亡くなったお母さんにおもいっきりフォーカスして、感動を呼びこむ設定になっています。
「僕、強くなろうと思う。お母さんみたいに、まっすぐに頑張れる人になりたい。」
作者は女子中学生なので、お父さんとは距離を置きたい年頃かもしれません。
本当はお父さんに、僕の名前の由来なんて、聞いたことなかった。
そもそも、幼い頃から、お父さんとは、ほとんど話をしたことがない。
お父さんは、お母さんが亡くなったのは、お父さん自身のせいだと言っていた。
だから僕も、お母さんが亡くなったのは、お父さんのせいだと思っていた。
お父さんは朝から三食ぶんの支度をして、遅くまで会社で働いている。
夜、居間でだらしなく寝ていたお父さんに、僕の名前の由来を聞いてみた。
「身体の弱かったお母さんが、生まれるお前のことを心配していた。
俺は、大丈夫だ、男の子でも、女の子でも良い、五体満足で、なくてもいい。
俺たちが、全力で受け止めてあげれば、必ず笑顔の花が咲くよって、お母さんと二人で考えて、名付けたんだよ。」
。
こんなふうに、みんなを生かすように書いていくと、『A(すごいね!)』がもらえると思いますよ。
どんな表現やアイデアも、あなたが取り入れたら、あなたのものです。いい作品ができるように、がんばってくださいね!
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