5月すえにしめきりのENEOS童話賞に応募したい子どもたち向けに、これまでの受賞作を『つよいこ方式』で解説していきます。
小学生編、中学生編に続き、今回は、一般の部にあたる高校生編です。
詳しい解説を見たい人はここをタッチ。べつのページでひらきます。
(小学生も読めるよう、全編、ふりがな付きです!)
ENEOS童話賞、第50回の受賞作品のページをさんこうにしてください。
おなじみ「童話のかきかた」つよいこ方式
第50回 最優秀賞『雨がすき』宮田一平さん
第50回(2019年) JXTG童話賞 【一般の部 最優秀賞】
文字の数は、1520文字÷最大2000文字=76パーセント。
1.構成力(こうせいりょく)
『A(すごいね!)』としておきます。
つよいこ方式では、『はじめ⇒なか⇒おわり』の三段階のそれぞれの役割を、学校の生活に例えて考えていきます。
●はじめ(入学)・・・おはなしに入る『入学式』。まじめ、はっちゃけ、なんでもありです。
●なか(生活)・・・・生活にはルールがあり、やぶる人もいます。
●おわり(卒業)・・・最後は『卒業式』。いい思い出にしよう
●主人公の花ちゃんが、駅までお父さんを迎えに行く。
●花はたっくんに、自分の赤い傘を貸す。
●一年後、花は、とつぜんの雨にふられる。
●青い傘をさした、たっくんが通りかかる。
●花とたっくんとの間に、ほのぼのとした感情が芽生える。
2.情報量(じょうほうりょう)
●駅まで、お父さんを迎えに行く。 ⇒ わくわくB
●赤い傘と黒い傘を持って行く。 ⇒ わくわくB
●幼なじみのたっくんを見つける。 ⇒ わくわくB
●たっくんが他の学校にいる理由。 ⇒ わくわくB
●たっくんが駅で待っている理由。 ⇒ わくわくB
●花が赤い傘を差し出す。 ⇒ わくわくB
●たっくんが赤い傘がいやな理由。 ⇒ わくわくB
●たっくん、赤い傘を受け取り走りだす。 ⇒ わくわくB
●1年後への場面転換。 ⇒ わくわくA
●花がケーキ屋さんの店先で雨宿りする。 ⇒ わくわくB
●青い傘をさした、たっくんが現れる。 ⇒ わくわくB
●自分は走るからと、花に青い傘を差し出す。 ⇒ わくわくB
●結局、あいあい傘で帰る。 ⇒ わくわくB
●花が、雨の日の好きな理由。 ⇒ わくわくB
●たっくんの、つっけんどんな反応。 ⇒ わくわくB
●花のかわいすぎる感謝のことば。 ⇒ わくわくA
●たっくんのつぶやき。 ⇒ わくわくA
2.5.心のふれあい度
3.文法(ぶんぽう)
書き出しから、リズム感のある、さわやかな文章がつづきます。
花が窓から外をながめていると、空から大粒の雨が落ちてきた。「おかあさん、雨がふってきたよ。」
「あらっ、たいへん。花、駅までお父さんを迎えにいってくれないかな。お父さん、傘を持っていないと思うから。」
「お父さん、いつもの電車?」
「そう、6時半に着く電車。」
「わかった。」
時間になると、花は玄関で大好きなオレンジ色の長ぐつをはき、傘入れから花の赤い傘とお父さんの大きな黒い傘を引っぱり出して、駅へ向かって飛び出していった。
4.読後感(どくごかん)
雨粒が青いかさ傘かさの上を転がり、枝の先からぼたぼたと道路へ落ちてゆく。
「ずいぶん前にたっくんと駅で会ったのも雨の日だったよね。雨の日に傘を持っていないと、普段なかなか会えない人と会えたり話せたりするしね……。」
ふたりは花の家の前まで来た。
「たっくん、今日はありがとう。おかげでかわいい女の子が雨にぬれないですんだよ。」
「だれだよ、かわいい女の子って。」
花は笑顔で達夫に手をふった。
達夫は花に向かって小さくつぶやいた。
「おれも雨の日、結構好きかも……。」
二人の上の空が少し明るくなってきた。
第50回 優秀賞『小学二年、男子。お風呂の入り方』藤井耿介さん
第50回(2019年) JXTG童話賞 【一般の部 優秀賞】
文字の数は、1735文字÷最大2000文字=87パーセント。
1.構成力(こうせいりょく)
夏目漱石の『我輩は猫である』では、主人公の『猫』がナレーションをして、物語がすすみます。
このお話では『ぼく』のナレーションを中心に進んでいきます。
●二年生の「ぼく」はたいていのことは自分でできるけれど、お風呂だけはお母さんと入る。
●かあさんとぼくがはいると、ちょうどお湯がいっぱいになる。
●おとうさんが入るには、お湯が少ない。
●半年後、三年生になったら、一人で入ると約束している。
●かあさんは、あと半年だねえ、とつぶやく。
2.情報量(じょうほうりょう)
●ぼくは、自分で食器を下げたり、たいていのことは自分でできる。 ⇒ わくわくB
●お風呂だけは、かあさんと一緒に入る。 ⇒ わくわくB
●家は農家で、とうさん、かあさん、兄ちゃんとぼくの4人家族。 ⇒ わくわくB
●兄ちゃんは12歳離れていて、家の仕事を手伝っている。 ⇒ わくわくB
●ぼくも、将来は家を手伝う。 ⇒ わくわくB
●かあさんの、頭の洗い方がすごい。 ⇒ わくわくB
●ヘチマの使いみち。 ⇒ わくわくB
●ヘチマでごしごし体を洗われる。 ⇒ わくわくB
●かあさんの背中はめっちゃ広い。 ⇒ わくわくB
●お湯の量が、かあさんとぼくが湯船に入るレベルに合わせてある。 ⇒ わくわくB
●がりがりのとうさんが一人で入ると、お湯が少ない。 ⇒ わくわくB
●お風呂の窓から、季節ごとの山の景色が見える。 ⇒ わくわくA
●子どもと一緒のときの世界一のお風呂のこと。 ⇒ わくわくA
●兄ちゃんに、からかわれる。 ⇒ どきどきC
●三年になったら、一人で入る約束。 ⇒ わくわくB
●ごしごし洗ってもらえなくなる、さびしさ。 ⇒ わくわくB
●かあさんのあと半年だねえというつぶやき。 ⇒ わくわくB
●半年後も、つながっていてあげるよという思い。 ⇒ わくわくB
2.5.心のふれあい度
3.文法(ぶんぽう)
全編が小学校二年生の『ぼく』の一人語りで進行します。
少しマセた小学二年生が実際にナレーションをしているような話し言葉で、細かいことを気にせず、ぐいぐい書き進んでいきます。
パワーがありすぎて小・中・高校生ならちょっと戸惑うような点もあるので、そういう細かいところをみてみます。
お湯に浸かると、窓からは、折り重なるように続く山が見えるんだ。
かあさんは、お湯に入ると、ほとんど毎回、ホッと大きな息をひとつ吐くと、季節ごとに山々の違った姿や表情がながめられて、こんないい風呂は、ほかには絶対ないという。
「一日の終わりに、おまえと一緒に、こんないいお風呂に入れるなんて、仕事のしんどさも忘れて、ほんと、生き返るよ。世界一のお風呂だねえ。」
正直ぼくには、毎日見ている景色だし、毎日入っているお風呂だから、それほどの感動はないんだけど、かあさんにそういわれると、そんな感じがするから不思議だ。
かあさんは、お湯に入ると、ほとんど毎回、ホッと大きな息をひとつ吐くんだ。
季節ごとに山々の違った姿や表情がながめられて、こんないい風呂は、ほかには絶対ないっていうんだよ。
4.読後感(どくごかん)
子どもの成長を見守るおかあさんの、うれしくてせつない気持ちでしめくくられます。
あの、節くれだった指で頭や体を、ちょっと乱暴だけど、もう洗ってもらえなくなると思うと、なんか落ち着かない。体がスースーするっていうか、ね。かあさんも、あと半年だねえ、こうして一緒に入れるのも、ってボソッといったりする。
一緒に入れなくても、かあさんには、湯上りのぼくを、ごしごし拭いてもらおう。
第50回 優秀賞『プロにおまかせ!』五十嵐尚子さん
第50回(2019年) JXTG童話賞 【一般の部 優秀賞】
文字の数は、1844文字÷最大2000文字=92パーセント。
1.構成力(こうせいりょく)
●流し台につまれた皿の山を見て、主人公の『のりえさん』はためいきをつく。
●それは、アライグマだった。
●冷蔵庫の残り物と引き換えに、洗い物を引き受けてくれる。
●アライグマは子どものいる裏山に帰る。
2.情報量(じょうほうりょう)
●流し台に皿が山のようにつまれている。 ⇒ どきどきC
●のりえさんは農家に嫁いで一年目。 ⇒ わくわくB
●のりえさんはアトピー(?)がある。 ⇒ どきどきC
●村の人が集まって宴会があった。⇒ わくわくB
●やさしいおしゅうとめさんが、温泉旅行に出かけていて、手伝ってもらえない。 ⇒ どきどきC
●庭先の暗やみにタヌキのような動物があらわれる。 ⇒ わくわくB
●その動物はアライグマだと名のる。 ⇒ わくわくB
●アライグマは、洗い物がとくい。 ⇒ わくわくB
●「お安くしときますよ。」 ⇒ どきどきC
●お金ではなく、あまっている食べ物でだいじょうぶという。 ⇒ わくわくB
●冷蔵庫の栗きんとんと卵を見せる。 ⇒ わくわくB
●アライグマが引き受ける。 ⇒ わくわくB
●空の段ボールをふたつつんで、その上に立つ。 ⇒ わくわくB
●スポンジにシャボンをさっとかけて、お皿を洗いはじめる。 ⇒ わくわくB
●身の上ばなしをはじめる。 ⇒ わくわくB
●いつでも呼んでくださいという。 ⇒ わくわくB
●あっというまに片づけてしまう。 ⇒ わくわくB
●流し台の水しぶきもきれいにふきとる。 ⇒ わくわくB
●冷蔵庫の残り物をうれしそうにうけとる。 ⇒ わくわくB
●ヨモギの葉っぱをもらう。 ⇒ わくわくA
●子どもの待つ裏山に帰っていく ⇒ わくわくB
●ヨモギの葉のいいにおいがする。 ⇒ わくわくB
●たまにお願いしたいなとつぶやく。 ⇒ わくわくB
2.5.心のふれあい度
中学生向けの最優秀賞の評価のところを、べつのページでひらきます。
小学生向けの最優秀賞の評価ところを、べつのページでひらきます。
3.文法(ぶんぽう)
アライグマはそっと台所に入ると、流しのまえに、空の段ボールをふたつつんで、そこにひょいとのぼり、バランスよく立ちました。
そして、スポンジにシャボンをさっとかけ、いきおいよく皿を洗いだしたのです。
4.読後感(どくごかん)
心づかいに感激したのりえさんが、お礼をいおうとすると、アライグマはすました顔で、
「子どもが待ってるので、今夜はこのへんで。」
なんていいながら、さっさと、裏山の方へ帰ってゆきました。
のりえさんは、ヨモギの葉のいいにおいをかぎながら、ひとり、おもいました。
(変なアライグマだったけど、皿洗いもうまいし、サービスもすてきだったわ。手がなおっても、たまにはお願いしてみようかしら。)
☆『カルマ』 ⇒ 良い結果や悪い結果を起こす原因のこと。狭いことをいうと前世をまたぐ問題ですが、広くみると、この世(現世)の生活の中にもあります。良いカルマ、悪いカルマがあり『業』ともいいます。
前回の中学生版の最後のお話にちょくせつ飛ばないかもしれませんが、べつのページでひらきます。
蛇足『カルマ』の問題
「ひゃあ、タ、タヌキ!」
と、のりえさんが悲鳴をあげると、
「しい!お静かに。みんなが起きてしまいますよ。それにわたし、タヌキなんかじゃありませんから。」
と、いさめるような言葉がかえってきました。
「タヌキじゃないですって?」
「人様を化かすタヌキなんかと、いっしょにしないでください。わたしはアライグマです。」
「……アライグマ!」
タヌキやキツネは昔から、作物を荒らしたり、家畜をおそったりするので、猟師に撃たれることがありました。傷ついて動けなくなると、猟師は油断します。どんな生きものも、子どもの所に帰りたいです。チャンスをうかがい、最後の力を振り絞って、とつぜん生き返ったように走り出します。これはすべての動物の本能です。
それがタヌキなら『タヌキ寝入り』、キツネなら『化かされた』というのです。当然、アライグマだって、人を化かします。
作物を荒らす動物として日本では、キツネやタヌキ、アメリカでは、アライグマがいます。アライグマは日本ではアニメが流行って大人気です。ところが、アライグマは大型で繁殖力が強く、北海道では牛舎につながれた乳牛や、アオサギという大きな渡り鳥まで、おそったりしています。
その一方で、熱狂的な団体が、なぜかアライグマの駆除には反対をして、大きなねじれをつくっています。
これから童話を書こうとするみなさんは、社会問題にも関心をもって、『良いカルマ』をもつ作品を書いてみませんか?